将棋界の「生きる伝説」として長い歴史を刻んできた加藤一二三9段が19日、順位戦C級2組から陥落することになり、引退が決まった。62年以上、盤面に情熱を注いできた加藤9段も既に77歳。現役最高齢棋士は万感の思いでこの日を迎えたのではないか。
振り返ればこの人ほど将棋一筋の棋士はいないだろう。1954年、当時最年少の14歳でプロデビュー。順位戦では毎年昇級を続け、最高峰クラスのA級に昇級したときが18歳という離れ業。この8段昇段のスピード出世は脅威の一言だ。その後も第一線のトップ棋士として存在感を示した。
若いころから居飛車党で知られ、特に自ら編み出した「加藤棒銀」で確固たる地位を築く。しかし、同時代に故大山康晴15世名人、中原誠16世名人という巨人が存在し、タイトル戦でも何度、悔し涙を流したことか。
だからこそ82年7月、本人が「夢であり、あこがれ」とも表現する名人を中原16世名人から奪ったのは、喜びもひとしおだったに違いない。最後に詰みを発見、奇声を発したのも加藤9段らしいエピソードだ。
70歳をはるかに超えても対局に臨む姿勢は何ら変わらない。一手、一手に全ての思いを込め、盤面に駒をたたきつける。迫力、体力、精神力…。誰も達することができない「孤高の境地」とでも言えようか。
残る対局についても、今までと変わらず全力で指し続けるはずだ。最後の一手まで、妥協のない加藤将棋を見せてもらいたい。